- 2021.06.10 Thursday
野の春
やっと文庫本が出たので、ワクワクして読みました。流転の海の第一部から第九部の本作まで37年。とはいえ僕は読み始めたのは7〜8年前からなので発売を待って読んだのは第八部からなのですが。
戦後間もなくの大阪、皆がそれぞれ生きるためになりふり構わない時代にあって、乱暴だが面倒見の良い親分肌の主人公が妻と子に加えて頼ってくる様々な人々を守りながら悪戦苦闘していくお話です。著者のお父さんをモデルにしているというこの主人公が50歳の時点から物語は始まるのですが、その歳で初めての息子を持って「おれはこの子が20歳になるまでは死なん」と決意して、戦争の余波と荒んだ人々と面倒を見た人たちの裏切りに遭ったりしながら家族を守っていくのです。
ですが思うようにならないことだらけで、良いひと時が来たと思うとその次には悲惨などん底に落とされるので、僕は何度著者の宮本輝さんを恨んだか知れません。
守るべきものも守れず突入した完結編の第九部。
2018年に単行本が出たのですが、我慢して待ちに待った文庫本を読みました。70歳になった主人公の最期というものは覚悟しつつも、せめて最後は報われて欲しいと切望しながら。
小説でこんなに泣いたのはいつ以来でしょうか。
電車の中で読んだのが間違いでした。人は死ぬしいつか自分も死ぬ。それは避けられないことですし単純なことなのですが、死に方の幅のなんと広いことか。いろんな最期があるにしても、なぜこの最期に著者は導いたのか。でも冷酷ながらこれが現実なのかもしれません。自分の満ち足りた死に方を思い浮かべるのは容易いでしょう。でもその反対の死に方を想像するのは、実は非常に難しいのではないでしょうか。自分と、そして妻と子供たち、そして親のこと。ただの壮大な物語の圧巻のフィナーレにはならなかった、様々なことを考えさせられる涙の完結編でした。
次の朝、どんよりを引きずって起きて、朝ごはんを作っている妻に何かあったのか友達でも死んだのかと問われ(ちょっと前に友人が亡くなったので)、長年読んできた小説の主人公がと話したら「くだらな、それより早く子供たちを着替えさせて」と。たしかにそれもまた現実。そして急務。
僕がぐだぐだ考えてても、現実的にいつも休まず家族を守ってくれている妻に感謝。m(_ _)m
がんばらねば。
おしまい
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- by sutohpiano